はじめに
メディアで「リセッション(景気後退)」の言及が増えています。本記事では定義→過去の背景と市場影響→現在の米国主要指標→今後のシナリオ→リセッション回避の政策案の順で整理します。投資家向けに注視すべきトリガー指標も最後にまとめます。
リセッションの定義(NBERの公式見解)
- NBER(全米経済研究所)は、リセッションを「経済活動の顕著な低下が経済全体に広がり、数か月以上持続」する局面と定義。判断は深さ・広がり・持続の3要素で、いずれかが極端に悪化すれば他を一部相殺し得る、と明記しています。
- よくある「GDPが2四半期連続マイナス=リセッション」との単純基準は、米国の公式判定では必須ではない点に注意。
過去のリセッション:背景と株式市場への影響(要点)
期 | 主因 | 経済インパクト | 株式の特徴 |
2008年 | 住宅バブル崩壊→信用収縮 | GDP急落・失業急増・デフレ圧力 | 大幅下落、信用不安でボラ拡大 |
2001年 | ITバブル崩壊・投資過剰 | 設備投資減速・雇用鈍化 | ハイテク主導で調整深い |
1990–91年 | 原油・不動産・信用環境悪化 | 消費・投資ともに減速 | 生活必需・ディフェンシブの相対強さ |

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共通項:金利ショック/信用収縮/家計・企業の負債調整/雇用悪化が重なり、先に景気敏感株が売られやすい!
2025年の米国:最新の主要経済指標(2025-09-16時点)
指標 | 最新 | 方向感・含意 |
実質GDP | 2025年Q2:年率+3.3%(Q1は**-0.5%**) | Q2は持ち直しも、成長のムラは残る。 |
失業率 | 4.3%(2025年8月) | 雇用の伸び鈍化。長期失業者比率の上昇に注意。 |
PCEインフレ(総合YoY) | 2.6%(2025年7月) | 目標上方で粘着。利下げペースに制約。 |
LEI(先行指数) | 7月-0.1%(98.7)、6か月で**-2.7%** | 先行指標は弱含みが続く。 |
住宅:建築許可(年率SAAR) | 135.4万件(7月)前年比-5.7% | 住宅は金利感応度が高く、景気の警戒信号。 |
イールドカーブ(10年-2年) | 近月はフラット化〜再スティープ化観測 | FRB利下げ観測と財政懸念で長短スプレッド拡大予想が増加。 |

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住宅と労働の「双頭の逆風」(高い住宅負担と雇用のたるみ)が同時進行との指摘も増加!
過去と現在の「似ている点/違う点」
- 似ている点:金利上昇の残滓→借入コスト高、住宅の鈍化、雇用の減速(失業率↑・求人減)、先行指標の悪化など。
- 違う点:ポスト・パンデミック要因(供給網・関税・住宅供給不足約470万戸)、AI投資の下支え、政策余地(利下げ・流動性ファシリティ)が比較的残る。
今後のシナリオ(確率イメージは定性的)
- ソフトランディング:成長は1〜2%台、失業率4.5%前後へ。インフレは2〜3%台へ徐々に低下。株式はディフェンシブ優位で持ち堪える。
- 浅いリセッション:LEI・許可件数・雇用が同時に悪化。企業収益の下方修正とともに、景気敏感株主導で調整。政策対応で半年〜9か月程度で底打ち。
- 深いリセッション:インフレ再燃で追加引き締め→信用収縮。失業率急騰・倒産増。広範なリスク資産の大幅下落。
投資家が注視すべき「トリガー指標」
- Sahmルール:失業率の3か月移動平均が直近12か月の最低から**+0.5pt以上**上昇で警報。
- イールドカーブ(10年-2年):再度の逆転/フラット化は警戒。
- コンファレンスボードLEI:6か月変化率の悪化が広がるか。
- 住宅着工・許可:許可の減速継続と在庫の積み上がり。
- 雇用(長期失業者比率、求人/失業比):長期失業の増加は景気の傷の深さを示唆。
リセッション回避(または浅く短くする)ための具体的政策案
① 金融政策(FRB)
- 段階的な利下げ:インフレ鈍化を確認しつつ、需要の“急冷”を避けるカーブ。市場は今月の25bp利下げ観測が優勢。
- 資金繰り安定策の常設化運用:**スタンディング・レポ・ファシリティ(SRF)**等の活用で、短期資金の逼迫を抑制(直近も利用が増加)。
- マクロプルーデンスの微調整:カウンターシクリカル資本バッファ(CCyB)を景気局面に応じて調整し、信用の過度な伸び/縮みを平準化。米国では0〜2.5%の可変枠を保有。
② 財政の自動安定化装置(オートマチック・スタビライザー)
- Sahmルール連動・自動給付:失業率がルール発動(+0.5pt)で家計に即時の定額給付を自動実行→家計消費を下支え。制度設計は**ハミルトン・プロジェクト(Sahm提案)**が詳細。
- 失業保険(UI)の期間延長・給付水準の弾力運用:景気局面に応じた延長は短期的に需要下支えの効果。CBO/労働省のレビュー参照。
③ 住宅・供給側(ミディアムタームだが効果大)
- 住宅供給のボトルネック緩和:許認可・ゾーニング改善、補助・税制で不足約470万戸の解消を加速→雇用と生産性にも寄与。
④ 乗数効果の高い公共投資の前倒し
- 伝統的インフラは乗数1.2〜1.5程度の推計が多く、需要・雇用の即効性が高い(状況依存)。

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総論:金融(短期安定)×財政(需要下支え)×供給(住宅・インフラ)を組み合わせ、深刻化前に“幅広く・素早く・自動で”効く仕組みを優先すれば回避できるも??
投資家向け:実務チェックリスト(簡易)
- ① LEIの6か月変化率がさらに悪化?
- ② Sahmルールが点灯圏内か?(失業率の3か月平均の上昇幅)
- ③ 建築許可が減速継続?(YOY/前月比)
- ④ 10年-2年のカーブが再逆転 or 急スティープ?(政策/財政期待の過度反映に注意)
- ⑤ SRF利用や資金市場の逼迫サイン(SOFR↗など)
まとめ
- 現状:リセッション入りの決定打は不在だが、労働・住宅・先行指標の同時悪化には注意。
- 市場:ソフトランディング期待とインフレ粘着の綱引き。企業収益見通しと政策の打ち手が鍵。
- 政策:SRF等の資金繋ぎ+段階的利下げ+自動給付/UI延長+住宅・インフラ供給で、景気後退を回避または浅く短く。

チキチキン
リセッションが必ずくる訳でもなく、来たとしても影響は軽微かもしれません。
しかし、備えあれば憂いなし!警戒しましょ!
参考資料
- NBER:景気循環日付けと定義
- BEA:GDP(2025Q2)・PCEインフレ(2025年7月)
- BLS:失業率(2025年8月)
- Conference Board:LEI(2025年7月)
- Census/HUD:住宅新設(2025年7月)
- FRED:Sahmルール、10年−2年スプレッド
- FRB:SRFの制度概要(常設レポ)
免責事項
本記事は、公開情報に基づき一般的な情報提供を目的として作成したものであり、特定の銘柄や投資対象の推奨を行うものではありません。投資に関する最終判断は、ご自身の責任において行ってください。記載内容については正確性・完全性を保証するものではなく、将来の成果を約束するものでもありません。
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